「異邦人」(カミュ)

彼の行動は極めて一貫性のある思考に基づいている

「異邦人」(カミュ/窪田敬作訳)
(「集英社ギャラリー世界の文学9」)
 集英社

「集英社ギャラリー世界の文学9」

「異邦人」(カミュ/窪田敬作訳)
 新潮文庫

「異邦人」新潮文庫

アルジェの場末町に住む
青年・ムルソーは、
母の死に際しても
一切の感情を示さなかった。
その葬儀の翌日、彼は
旧知の女性と情事にふけるなど、
普段と変わらぬ生活を送る。
ある日、彼は
友人のトラブルに巻き込まれ、
殺人を犯す…。

カミュの「異邦人」を読むのは
これで何回目でしょう。
高校生のときに読んで以来、
5~10年に一度くらいの割合で
再読しています。
そしてその度に
何か言い表せない感覚が
心の中に残ります。

若い頃は、
主人公・ムルソーの人間性について、
常人の持つべき何かを欠いた、
不完全な感性の持ち主であり、
無目的に生きている現代人を
デフォルメして投影しているのだと
自分勝手に捉えていました。
最近、遠藤周作「沈黙」
ジッドの諸作品に接したせいか、
今回は宗教との関わりという視点で
読むことができました。
彼は基督教的なものを
ことごとく拒否しているのです。

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親の葬儀で涙を見せなかったのは、
基督教徒としては
有り得ないことと考えられます。
ましてや喪に服すのではなく、
女性と関係を持ったり、
喜劇映画を見たりするなどという行為は、
許されないことなのでしょう。
だから裁判では厳しく追及されたのです。
ムルソーの行為は、
殺人以外の部分ですでに
「重罪」だったのです。

マリイに対して「愛を誓う」行為も
ムルソーは拒みます。
自分と結婚したいかと
尋ねるマリイに対して
「そう望むのなら、結婚してもいい」と
答えるムルソーに対して、
私はこれまで自己中心的で未成熟な
若者の匂いしか
感じてこなかったのですが、
「基督教的なものと無縁」であると
考えると整合性が見えてきます。
神の前で愛を誓う結婚は、
最も基督教的でしょうから。

判事がかざす十字架に
関心を示さないのも、
悔悛を迫る司祭を罵倒するのも、
同じことです。

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彼の思考や行動は、無目的などではなく、
極めて一貫性のある思考に
基づいていることに気付かされました。
基督教の教義に価値の一切を置かず、
自分の心の欲求に
極めて純粋に向き合っているのです。

基督教の教義は、
その信徒が大多数である欧州では
「常識」と捉えていいものでしょう。
「常識」に価値を見いださす、
それ故「常識」にしばられない
自由奔放な生き方。
ただし、それはあまりにも
リスクの大きい生き方なのでしょう。

※長年読み続けてきたのは
 新潮文庫版ですが、
 今回実際に読んだのは
 「集英社ギャラリー世界の文学9」です。
 昭和62年刊行の文庫本では
 活字が小さすぎて…。

〔「集英社ギャラリー世界の文学9」
            収録作品〕

異邦人 カミュ
 サルトル
水いらず サルトル
泥棒日記 ジュネ
なしくずしの死 セリーヌ
ル・パラス シモン
ジン ロブ=グリエ

(2019.4.25)

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2件のコメント

  1. シニアの私の青春時代は、サルトルに代表される『実存主義』が
    光り輝いていました。
    佐世保同級生殺人や秋葉原無差別殺傷などの不可解な事件で、
    まず頭に浮かんだのが、カミュの「異邦人」でした。
    人間社会に存在する『不条理』な世界を描いた小説です。
    加害者を『不条理』というキーワードを使って擁護する
    つもりは毛頭ありませんが。
    「太陽が眩しかったから」と。何もかもわかっていて、
    その上で虚無の世界に迷い込んだのでしょうか。

    1. Y.SUGITA 様
      こんばんは。コメントありがとうございます。
      私も佐世保や秋葉原の事件が起きた当時、
      本作品を連想し、
      時代が小説の世界に追いついたのか?と
      愕然とした記憶があります。
      しかし、本作品を読み込むと、
      そうしたものとはやはり異なるものであることが
      感じられます。
      説明が難しいのですが。

      これからもよろしくお願いします。

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